五感力を生かして探求しよう
―幼児との取り組み―
小学校への受験が終わって小学校に入学するまでの幼児11名と五感の授業を行いました。その時の実践をご紹介いたします。
全授業の意図
幼児から小学校低学年までに非認知能力を育てる
今回の企画を遂行する「学びの未来研究所」共同代表、岸尾は39年間私立小学校の教諭を経験しました(1981年~2020年)。その教育の過程で子どもの育成にとって5つの視点が重要であることを認識し続けてきました。
その5つの視点を今回の企画に応用すると以下のようになります。
その5つとは①目標 非認知能力の育成(好奇心、意欲、集中力、コミュニケーション力、関わり力などを育てる)②内容 自由研究への取り組み力の育成(日常自由研究とされる内容に取り組む力を育てる)③方法 五感を生かして探求する力の育成(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などを生かして探る力を育てる)④支援 家族のサポート力の育成(家族で学びあうサポート力を育てる)⑤継続 幼小一貫教育での育成(幼児から小学校低学年で継承して育てる)
まとめると、幼小一貫教育を大切にし、家族のサポートに護られ、五感の働きを生かし、自由研究に取り組み、非認知的能力を身につけることが子どもの育成にとって大きな役割を果たすと認識してきたのです。
「五感力」の育成は生涯にわたる学ぶ力
その中心に位置づくのが「五感力」の育成です。この「五感力」の育成は私のライフワークの1つでもあります。私の専門教科が社会科ということもあり、外国、国内の多くの地域のフィールドワークをして多くの体験と実物の収集をしてきました。その時に最も活用したのが「五感力」です。私の実践、体験を基にノンフィクション作家・五感生活研究所代表の山下柚実さんとの共著が『子どもを育てる五感スクール 感覚を磨く25のメソッド』(東洋館出版、2006年)です。
その著書の帯に、当時東京大学教育学部教授の佐藤一子氏の「五感力は、生涯学習の基礎・基本」と推薦の言葉があります。生涯学習という視点からも「五感力」は大きな役割を果たすのです。今回の企画はこの著書をベースにして幼児が取り組めるように構成したものです。
京都大学総長でゴリラ研究者の山極寿一氏も最近の著書『スマホを捨てたい子どもたち』(ポプラ新書、2020年6月発行)で次のように書かれています。「信頼関係をつくるのは言葉ではありません。言葉は代替物であって、信頼関係へのリアルな架け橋になるのは、それ以外の五感の中、正しくは五感を感じられる身体の中にあります。フェイスブックやライン、ツィッターを駆使して、どこかで他人とつながろうとする。でも、身体のつながりなくして、本当につながることができません。本当に信頼できる人とのつながりをつくるには、時間と空間を共有し、五感を使った付き合いをする必要があります。」
私の39年の教育実践で感じてきたことがあります。「五感を生かして、自由研究に取り組める子どもの多くは非認知的能力が育っている。そして、非認知能力が育っている子どもの多くは認知能力も育っている」ということです。
私は以前からこぐま会代表の久野泰可氏の授業には注目してきました。久野氏のこぐま会ホームページでの「室長のコラム」や『「考える力」を伸ばす』などの著書から多くのことを学ばせて頂きました。
今回のプログラムの先行実践はすでに久野氏の授業にあります。「週刊こぐま通信『室長のコラム』」第728号「対面授業・学びあいの素晴らしさ」(2020年7月10日)第729号「経験を通して、学びの基礎をつくる」(2020年7月17日)で紹介されている事例です。そこには「五感」「味覚」「嗅覚」「視覚」「聴覚」「触覚」「触索」「みんなの家の周りにどんなマークがあるか調べてみてね」「お手伝いで料理を作る時、どんな材料を使い、どんな順序で料理するかを、絵本風に書いてみてください」「ものに触れ」「調べ学習」という言葉や文章が登場します。幼児でも家族の協力があればここまでできるのだという今回の企画を遂行する契機となりました。